ケアマネジメントのプロセスを考察する

 

 

はじめに

 介護支援専門員に求められているものは日一日とレベルアップしている。制度開始当初はともかく利用表と提供表を作って、サービスを受けることを確保すればいいといわれていた。それこそアセスメントは後付でもいいからともかくサービスを受けられるようにしてくれさえすればいいといわれていた。事実介護支援専門員実務研修の中では細かなケアマネジメントに対する研修はなく、アセスメントツールの使い方と給付管理の少々。そんな研修で現場に放り出された。

 しかし時がたつにつれそれではいけないといわれ、そこに給付費の増大が見込み以上に膨らんできて、それは「ケアマネが適切なケアマネジメントをできないからだ」と言われ始め、さらには「自立支援」のためのケアマネジメントをするということはICF理論に基づいた「目標志向型ケアマネジメント」を展開することであり、ケアマネはそれを実施してナンボの存在だと言われた。

 そして更には平成18年度改訂に向けた検討プロセスの中では「ケアマネはケアマネジメントできない。ケアマネがしているのはマネーマネジメントであり、御用聞きケアマネジメントでしかない」と酷評され、ついには介護予防ケアマネジメントからは介護支援専門員をオミットするという結果になった。

 

 本当に介護支援専門員はケアマネジメントすることができないのか。

 本当に介護支援専門員は御用聞きケアマネジメントしかできないのか。

 本当に介護支援専門員はサービス優先のケアマネジメントしかできないのか。

 

 では逆に問いただしてみたい。目標志向型ケアマネジメントを行い、自立支援に向けた(国が求めている)適切なケアマネジメントを全ケアマネジャーが実践できるような「教育システム」があり、かつそれが機能しているのかと。

 

 この考察は実は介護支援専門員実務研修に向けてケアマネジメントのプロセスを改めて見直しをして、何をする事が求められているのか。そしてその求められている役割や機能を果たしていくためには何が必要とされているのかを見つめなおすことを当初の目的として、自分自身がどう考えているのか、どうしているのかを再確認するために書き始めたものだ。そして、介護支援専門員である私が、ケアマネジメントとはこういうものだということがまとめをする事ができない限りはそれを他者の前で話をする事ができないので、このような形にまとめをしてみようと思ったのがきっかけだ。

ケアマネジメントとは実は難しいものでもないし、手間がかかって困るものでもない。そして、ケアマネジメントのプロセスをまずはケアマネジャー自身が適切に行うこと。ここがしっかりできていれば後の展開はさほど困るものではなくなってくると考えている。

 

このような考えに基づいてケアマネジメントに求められているプロセスを紐解いて、何をする必要があるのか、それを果たすためには何が必要になるのかを考えていきたい。

 

 

第1章 「インテーク」

インテークとはどこからどこまでの展開を指すのか、というと人によって定義はまちまちだ。「依頼電話があり、初回面接までの間」という定義をする人もいれば「依頼電話から居宅サービス計画の同意まで」という人もいる。そこでこの稿では「依頼電話から初回面接で契約の締結に至るまでの間」と定義づけをする。

 

インテークの段階で行うべき事はいくつかある。

 

1.事業所としてサービス提供依頼を受諾するかの判断

 ⇒これは受け持ち人員上限規定の面、通常の事業の実施区域の面、認定結果の面からの判断が求められる。

2.緊急性の判断

 ⇒自体が逼迫しているのかいないのかを判断するために、できるだけ少ない情報の中から的確に判断することが必要となり、そのためには分析力・洞察力が求められてくる。

3.状況のおよその把握とそれに基づく目算

 ⇒事前に関係するであろう様々な情報収集や、必要になるであろう支援などを考察したり、危機管理へと結び付けていくための「仮」の判断が必要になる。

4.期待価値の確認

 ⇒誰から紹介されたのか、どこから情報を得たのかの経路を把握することで利用者側が何を・どのくらい期待されているのかを把握し、できること・できないことの判断へと結びつけをする。

5.当面の困りごとへの相談やアドヴァイスの提供

 ⇒実際に支援開始前に叶えておくべきことの有無の確認やその方法のアドヴァイス、あるいは取り急ぎしておくべきことへのアドヴァイスなど、必要な情報を提供する。

6.最後に必要な情報収集と情報内容に基づく対応

 ⇒住所などフェースシート情報の確認、訪問のアポイントメントはもちろん、認定結果の有無などもしっかりと確認しておく。

 

ではこれらのポイントがなぜ必要になるのかを考えてみる。

 

1については、事業所としてサービス提供依頼を受諾できない場合には運営規定に基づいてサービス提供可能な事業所の情報提供をする義務がある。そのためには他事業所の様子を把握していることが求められる。

2については、状態に応じて待ったなしに係らなければいけない場合への対処、ケアマネジメントよりも先に投入しなければいけない支援の有無などを把握していかなければ、危機介入として不適切になる。その判断のためには短くそして表面的な言葉のやり取りの中で状況や課題を分析し、利用者や家族の立場で状況を洞察できる感受性や能力が求められている。

3については、インテーク段階での話しから「こういう状況であればこのようなサービスが必要になるかもしれない」という判断から、そのサービスの提供の可能性を把握しておくこと(情報収集しておくこと)で、アセスメント段階が円滑に展開していくことができる。

4については、どのような経路を辿って依頼をされてきたのかでケアマネジャーに期待している度合いがわかる。例えば「友人の親御さんがこちらにお世話になっていて、とっても良くしていただいているって言っていたので、うちのおばあちゃんにもぜひにと思って・・・」となればどのくらい期待されているのかがわかろう。これに応えていくことができて初めて利用者側は満足される。

5については、一般的な情報提供でもかまわない。利用者や家族は情報が、知識がない(少ない)ので、一言二言のアドヴァイスは本当にありがたいものと感じられる。またアドヴァイス一つで状況が変わることもあるので、大切にしていく必要がある。

6については、これがなければ仕事にならないものだ。

 

このようにインテークの場面では、これから仕事をしていく上で必要不可欠な「もの」を獲得することが主な狙いとなる。その中でも最も重要な「もの」は「相互信頼関係」である。少なくても利用者側から「このケアマネジャーと付き合っていっても大丈夫だ」と感じてもらえるようにするためにも、少ない情報の中から適切な判断ができ、そして利用者や家族の「困っている」状況を洞察すること、そしてこれらに基づいて対応をしていくことで「信頼関係」が産み出されていくことになる。故にインテーク段階での「世間話」や「一般論」は信頼関係の構築のためには無駄なものではない。むしろ必要な情報(介護に係らず様々な事柄についての)を提供したり、介護上のアドヴァイスをする事で信頼関係がより容易に作り上げられるものであることを理解しておく必要がある。

 

 

第2章 「目標の明確化と共有」 −アセスメントの最重要項目であり、かつ最初の一歩として−

 

1項 目標志向型ケアマネジメント

ケアマネジメントのプロセスのStep2は「アセスメント」だ。アセスメントはケアマネジメントの中枢に当たるため、少し詳しく触れていきたいと思う。

アセスメントプロセスの第一歩は「目標」だ。その目標を明確化していくための「基礎理論」として「目標志向型ケアマネジメント」があり、それはICF(国際生活機能分類)に基づいて組み立てられている。そこでまずICFの理論と、目標指向型ケアマネジメントについて考えてみる。

ICFそのものは情報の分類と分析を行うためのツールだ。これだけではアセスメントたり得ない。したがってICF=アセスメントツールとして考えることは間違っている。ICFの理念は利用者の生活の全体構造を把握し、疾病や障害がありながらも、日々の暮らしや将来の暮らし、そして生活そのものの価値を高めていくことを狙いにしているものである。この考え方は障害の有無に関わらず、全ての人にとって有意義な理念である。ということは要介護高齢者の支援においてもこの考え方を使っていくべきであるし、この考えを用いていかずに適切な支援を提供していくことは難しい。特にこの考え方を用いずに支援を提供しようとすると、そこはケアマネ個々の力量による差が大きくなる。つまり職人芸になってしまう。そうなるとケアマネジメントがこれだけ広まっている中で職人芸に頼って仕事していくことは有益なことではない。広く浅くの形でケアマネジメントのボーダーラインを引き上げていくためには、ICFに基づく目標志向型ケアマネジメントの展開が求められている理由になる。

 さて、目標志向型ケアマネジメントの展開においては、ICFでいう「参加」、つまり人生レベルで暮らしの質が高まっていくことを求めている。具体的に言えば、「望む暮らし方」、つまり「こういう暮らしをしたい」「この役割を続けていきたい」というものを実現する、そのためには「何を・どうしているのか」を明らかにして、その実現に向けた支援をする。そのプロセスの中に身体的な機能や能力の向上を手段にしていくことになる。ここが一つのポイント。身体的な機能や能力を高めることは「手段」であって、目標になるものではない。目標は、身体的な機能や能力を高めることで「何をしたいか」ということである。これを取り違えてしまってはいけない。
 アセスメント段階では「望む暮らし方」の明確化がケアマネに求められている最も重要な要素だ。これを明らかにするためには表面的な情報収集ではことが足りなく、面接技術に裏付けられた情報の収集分析が必要になる。ここにケアマネとしての専門性が求められている。こうやって明確化した「望む暮らし方」は実現可能なものである。したがってその実現のための方法論としての支援を検討していく。
 この方法論の検討の際にはケアマネが「神」ではないので当然に得手不得手がある。だからこそ他の専門職の助けを借りて(情報収集したり、アセスメント場面に専門職に加わってもらったりなど)アセスメントの精度を高めていく。このプロセスを通じてケアマネ自身も自分の資質を高めていくことになる。そしてこのようにして支援を計画したものを、担当者会議を通じてサービス提供者に伝達をしていくとともに、ここにもう一度専門職の専門的見地に基づく意見を加えて計画を練り直すことになる。そして専門職間の連携の方法を確立して、支援を提供していく。
 目標指向型のケアマネジメントは、利用者にとっては身近なところで目標が設定される。しかもその目標は「与えられたもの」ではなく「自らが望んでいるもの」である。この違いはモチベーションの違いになる。自らの望む暮らし方をかなえていくため、多くの専門職が関わってくれる。だから自分もただ指をくわえて「してくれる」ことを待つのではなく、自らもできることを頑張る。この利用者個人の頑張りを支え、高めていく支援もまた必要になっていく。
 こうやって考えていくとICFの理念に裏付けられた目標志向型のケアマネジメントは、ケアマネジメントを「職人芸」の領域から、汎用性の領域へと変革させることになる。そしてこれによって多くの利用者が生活していること、満足な暮らしができていることを実感していくことが可能になっていく。ここにケアマネジメントの手法としての目標志向型ケアマネジメントの優位性があると考えている。

では、目標志向型ケアマネジメントの展開にICFの理念をどのように活用していくことが必要なのかを考えてみる。ちなみにこの展開は「ケアマネジメント」において必要になる展開で、それは「介護給付」「予防給付」の両面のケアマネジメントの展開に有益になるものであることを付け加えておく。
 それは、「ICFモデル図」を活用して情報分析をしていくことは具体的個別な支援の入口を探すことである、ということだ。
 たとえば疾病などによって疾病は治癒されていても自信が喪失してしまい、結果として生活機能が低下している利用者さんがいる。この利用者さんに対して身体機能を高めるための支援や活動性を高めるための支援を展開しようとしてもその効果=自信の回復=生活機能の向上は難しい。でも個人因子である「自信」の回復のために介護環境の一つである福祉用具を上手に活用することや、活動を支援していくときの支援内容の中に自信の回復に結びついていく声がけや見守りや動作支援を取り入れていくことで自分自身の可能性と実態に気がついて自信回復になり、結果として生活機能の向上が可能になる。このように、支援の入口を探し、その入口からどう辿っていって生活機能を高めていくかのルートを示してくれる材料になる。これは、これまで個人の経験と勘によって「支援の入口の発見と展開」を行っていたことを、科学的に、そして誰でも見出すことを可能とするものになる。その意味でとても重要なICFの効能だと思っている。ただ、簡単に行うことができるというものではないことはたしかだ。
 目標志向型ケアマネジメントを展開するためにはまず対人援助専門職者として、援助を提供する対象者であるクライアントをどう捉えているのかという根本的な理解が求められてくる。つまり利用者さんにはいかなる人であっても潜在的な可能性が残されていて、その可能性を見出し・引き出し・活用し・高めていくことが使命だということを理解していることから始まってくる。そしてそれを行うためのノウハウを理解し実践できることが求められてくる。これは相談面接技術を含めた、クライアントの「真の気持ち」を見つけ出してくるためのもろもろのノウハウを使えるということになる。
 これらをベースにして、そこに更には何をどのように活用していけば最短ルートで目標到達できるのかを考えていくために、様々な知識・発想とその源になる情報を得ていることが求められている。だからこそ一朝一夕にはできるものではない。でも「そのつもり」になって関わっていくことをしないと一生それを習得できるものでもないわけだ。

 目標指向型ケアマネジメントの出発点は「目標とする暮らしの明確化」だというと、認知症の利用者からはどうやって把握すればいいのかということが必ず話題になる。ここで考えてみる必要があるのは「認知症に罹患しているとは言えクライアントには望む暮らしが絶対に存在している」という至極当たり前のことをだ。認知症のある利用者は「望む暮らしを語ることができない」のか?確かに「言語」としては語れないかもしれない。しかし言語で語られないということと「ない」ということは全く別なものであるし、言語で語られないのであれば言語以外の方法で理解をし、明確化していかなければならないはずだ。コミュニケーションは「非言語的コミュニケーション」という方法があり、それを活用することが出来て初めて対人援助専門職種としての価値が生み出されてくる。介護支援専門員は対人援助専門職の一員として、非言語的コミュニケーションを活用して、言葉では言い表すことが困難な利用者の「望む暮らし」を明確化できる力がなければ勤まらない。これを具体的にどのように係わっていくことで望む暮らしを把握するかを考えてみる。
 一つの方法は生活歴に関連して見つけ出すという方法。
 本人や家族へのインタヴューを通じて何が好きだったのか、何をしたいと思ってきたのかを把握し、それを出発点として「望む暮らし」を探っていくという方法だ。クライアント本人に直接的に確認をしても難しいことはあるかもしれない。このようなときには家族に話しを聞く。その中から「望んでいる暮らし」や「し続けていきたい役割や活動」などを見つけ出そうという方法だ。
 二つ目の方法は観察を中心としたかかわりの中から判断をするという方法。
一つ目の方法をはじめとして様々な情報を分析して「これか?」と思ったものをクライアントに提示してみて、そのときの様子を確認する。推測が正しければそれなりに反応を示してくれるだろうし、外れていたらそれはわかるものだ。更にそこに家族からの情報を加えていけば自ずと何を望んでいるのかが理解していかれる。ただこの場合に留意しなくてはいけないのは「代弁」ということであり、代弁をするための質問の仕方だ。「ご家族はどう思いますか?」と尋ねれば家族としての考えを表明する。これでは代弁にはならない。「長年一緒に生活された碁家族として、利用者さんならこういうときにどうしたいといわれていましたか・どうすると思われますか?」と尋ねることが必要になる。
 また一度わかったから終了にはならない。この時点ではまだ出発点に過ぎない。実際に支援が開始され、その中から得られた情報や支援の効果を付け加えていきながら精度を高めていくことが不可欠になる。これを繰り返していきながらどのような支援が良いのかを手探りしていきながら対応していく。それが認知症ケアに必要なことだ。
 ICFの考え方を認知症ケアに活用する。実は特別なことでもなんでもない。ごく基本的なケアマネジメントの手法を「活用」しているだけだ。そこにほんのちょっとのスパイスを加えただけのことだ。特殊なことでもなんでもない。認知症のあるクライアントへの目標志向型ケアマネジメントが難しいのではなく、難しくしてしまっているということになる。

 

2項 目標とは

本項では「目標志向型ケアマネジメント」の最も重要なもので、かつ最も明確にすることが大変な「目標とは」ということについて考えてみる。

「目標」とは何か。

目標とはプロセスを辿って目指す「具体的な到達点」である。例えば「富士山の頂上に立つ」という場合の富士山の頂上が目標になる。したがって目標は具体的なもので、到達しているかいないかが明確に判断できるものでなければならない。また、今の私の目標として「エベレストの頂上に立つ」というような体力的にも登山技術的にも不可能なことは目標にはならない。なぜなら何をどう努力していってもその状況には到達し得ないからだ。更に、今の私の目標として「九九を覚える」ということも目標にはならない。すでに九九は覚えて使っているからだ。

そしてこんなものも目標にはならない。「夫婦二人で暮していくことができる。」これは夫婦の一方がいなくなる、夫婦以外の誰かがその家にやってくる。このような状況が起こらない限りは、夫婦二人で暮すことは当たり前のことであって目標ではない。

ではこの「目標」をどうやって見つけ出してくるのか?

答えを一言で言えば「コミュニケーションの結果として目標を見つけ出す」ということになる。文字に置き換えるとはなはだ簡単なものになるが、実際にはかなり大変なことになる。

まずコミュニケーションを行い、相互信頼関係が築け、より深く意味のあるコミュニケーションが図られなければならない。人は誰しも信頼がおけない人物に自分の真の気持ちを簡単に明かそうとはしない。介護支援専門員が利用者にとって信頼のおける対象にならない限りは目標を見つけ出すことは困難になる。また、信頼関係を作り出し、維持し、更に深めていくためにもコミュニケーションは不可欠なものだ。コミュニケーションを通じて利用者が「どのような暮らしをしていきたいのか」、「どのような役割を果たしていきたいのか」、そしてそれらの実現の可能性を評価し、実現の可能性を明確にして共有化して、目標として設定することが必要になる。

目標とは、利用者にとっての「生活の目標」であり、「このような暮らし方をしていきたい」という思いである。この目標を叶え、思い描いている暮らしが現実に手に入るように支援を展開していくこと。それこそが目標志向型ケアマネジメントの出発点になる。また、利用者にとっては、自分の思い描いている暮らしが実現できる。その可能性があり、そのために必要な方法が明確になるとともに、自分自身が頑張ることや手伝ってもらうことが明確になることで、利用者自身のモチベーションが高まり、日々を積極的に過ごしていくことが可能になる。

そのためにも介護支援専門員は利用者の目標を的確に把握することができて「当たり前」の存在である。目標を把握することが大切であること、それがケアマネジメントの第一歩になる。

では目標をどうやって把握するのかということになる。そのための手段が「コミュニケーション」である。

 

3項 コミュニケーション

「あなたの『望む暮らし』『生活の目標』ってなんですか?」

このように訊かれて自信たっぷりに即答できる人はどれくらいいるだろう?私もたぶん唐突に訊かれたとしたら即答はできないだろう。

でも、この問いに対する答え=『望む暮らし』であり『生活の目標』であって、それへの到達のために必要な支援を提供していくことがケアマネジメントの方針となっていく。すなわちこの答えが支援全体の『目的』となっていくわけだ。そしてこの目的を果たすための「目標」として、何を・どのように具体的に実施していることなのかを明確にしていくことだ。

しかし問われても即答できないように、利用者はそれを明確に意識しているとはいえないし、まして加齢や疾病のよって様々な障がいを持つことで思い自体も縮小してきているため、「言葉」として伝える事が困難になっている。そこで重要になるのが「コミュニケーション技術」だ。ここで言うコミュニケーション技術とは「ミクロ」な技術ではなく、マクロの技術だ。具体的な例を出せば、「話の聴き方」であり「話の伝え方」である。

話を聴くときに重要なことは「何を言ったのか」に重点を置くのではなく、「何を伝えたかったのか」に重点を置くことだ。つまり「何を」「どのように」話しをしたのか、また「話さなかったのか」をきっかけとして、利用者が本当は「何を伝えたかったのか」を考えながら「傾聴」すると言うことだ。そうしないと表面的に「語られたこと」で判断をする事になってしまい、語られたことと本心がイコールでない場合には利用者が望んでいることとはまったく違う支援を展開してしまうことになる。

では「なぜそういったのか」を考えるということがどういうことかというと、一つは「今語られたことと過去に語られたことの関係性」を考えていくということだ。

例えば前に語られたことと今かたられたことに整合性がないとすれば、そこには何かあるに違いない、それは何かを考え、それを明らかにする質問をする。整合性があればそれはこういうことなのかという判断をより確固たるものにする材料が増える。またもう一つの方法は「何が語られて何が語られないのか」を判断することだ。語られなかったことは「語りたくないのか」「語れないのか」を区分するとともに、その理由も考えていく。語りたくないのは触れられたくない部分で、それを自分の口から語られないことの理由は、ことの本質に近づいている証でもある。

このようにコミュニケーション場面では利用者の言動を把握し、それに対して自分は何を考え、想定し、判断するという指向を重ね、それに基づいた対応(自分自身の発言)を行い、それに対する反応を確認してまた次の判断をするというプロセスを辿ったコミュニケーションを行うことが求められている。

そうすることで自分自身が「本当の思い」を固めて生き、本質へと近づいていくことになる。ただし、ここで注意することは自分自身が思い描いたことはあくまでも自分自身の推測であるということ。必ず利用者に自分の推測が正しいのかを確認して、事実として積み重ねをしていくことが必要になる。

このようなコミュニケーションを展開した「結果」として「利用者さんの望んでいる暮らし方はこういうことですね。そしてそれはこういうように活動していることですね。こう考えてもいいでしょうか?」と確認をしてまとめていくことになる。

目標を利用者と共有かできたら、その目標を実現するために何を必要としているのかを明らかにすることが必要になる。それが「ニーズ」だ。

 

 

第3章 「ニーズ」

ニーズをどうやって明確化していくのかについて考えていく。

望む暮らしが共有化され、その具体像が明確になるとその状態に達するためには現状の、どこを・どのように「変容」していくことが必要になるのかを考える。これが「ニーズ分析」だ。例えば「歩行器を使って屋内を自分で歩行・移動している」という状態を目標の具体像とした場合、現在の歩行状態・下肢機能・能力、居住環境などに着目し、下肢の筋力強化が必要だとなれば筋力を強化することが課題となる。住環境をバリアフリーにすることが必要であれば、段差解消をしてバリアフリーにする事が必要になる。福祉用具がなければいけないのであれば、歩行補助用具が必要で使いこなすことが課題となる。このように望む暮らしの具体像に到達するために現状のどこに・どのような支障となる状況があり、それをどのようにしていくのかを考えていくことでニーズが明確化されていくことになる。

ニーズを明確化していくときには「全てのことを支援する」という考えをもってはいけない。このときに必要な考え方は「使えるものは使う」という視点である。言い換えれば「利用者の可能性を見つけ、それを活用する」であり「介護家族の可能性を見つけ、それを活用し、強化していく」である。すなわちこの考え方と実践こそが「エンパワメント・アプローチ」ということになる。そして「可能性の発見」、特に「潜在的可能性の発見」において、課題分析者である介護支援専門員が、自分自身の分析や情報収集能力に自信がないときには「餅は餅屋」の考え方を活用する。つまり専門職の専門的見地に基づく専門的な意見を広く集め、活用することが求められている。これを「インフォームド・コンセント」あるいは「インクルージョン」と言う。専門家の判断に基づく「可能性」を介護支援専門員だけではなく利用者自身や家族も共有すること=可能性に気がつき、可能性を使おうとするためにも、「可能性の発見」の部分には利用者・家族と一緒に探していくことが求められてくる。

このようにして課題を明確化することは「何のために支援を受けるのか」を明確にすることであると同時に、「何のために金を使うのか」を明確にする事でもある。逆にいえば介護支援専門員は「この課題を解消することでこのような状態になる」ことを利用者・家族と「契約」する事になる。だからこそ課題の設定については「実現(解消)できる」目標に基づいた課題設定とし、その課題は解決(解消)する事ができる、具体的なものとして設定されていかなければならないわけだ。このときの課題設定は、どのようにするのかでそれ以後の取扱が変わってくる。例えば課題を「大きなもの」として設定すると、そのための長期目標や短期目標が細かくいくつも設定することになるが、課題を小さく設定していくと長期目標や短期目標は身近な小さなものとして設定される。どちらの方法をとっても問題はない。どちらが良くてどちらかが悪いというものではない。目標の設定方法や状態に応じて適宜使い分けをする事が必要になる。

課題が明確化され、それを利用者・家族と共有(共通理解)できたら、次のプロセスは課題を解消した状態とそのプロセスを考える、つまり長期目標と短期目標の設定だ。

 

 

第4章 「目標設定」

課題の解消した状態へ向けて支援をしていく。その支援の効果によって利用者の状態は変化していき、課題の解決ができるようになる。例えば、ベッドからの立ち上がりができるように支援をして立ち上がりができるようになり、立位のバランス保持能力が向上し、器具やつかまりながら短距離が歩け、歩行距離が伸びていき、トイレに行けるようになり、食堂へ出て行かれるようになる。更には介助を必要としている度合いが変化していく。また利用者の心理面でもできることが増えていくことで、一旦縮小した自分自身の動作能力に対する自信が少しずつ回復し、それが次のモチベーションを産み出してくる。

このように課題の解決に向けては「段階的」に、一歩ずつ進めていくことが求められてくる。ここでは利用者は成果が得られていけばいくほど頑張るので、その頑張りが空回りして「頑張りすぎ」になったり、一足飛びで頑張ろうとする。その結果転倒等の事故へ結びつく可能性があるため、慎重にステップを考えていく視点が必要となる。

また、最初の到達目標は「頑張ればできた」という結果を感じ取ることができる程度に設定することが必要だ。達成感を一つずつ味わっていくことができてはじめて自信の回復へと結び付けていくことができる。

この最初の一歩が「短期目標」として設定される。

短期目標をいくつかクリアした状態として「長期目標」が設定される。

長期目標をいくつかクリアしていくと課題が解決した状態に到達する。その意味で長期目標は「一里塚」という考え方ができる。

ところで、短期目標も長期目標も「達成したこと」が主観的にも客観的にも「確認できる」こと、すなわち「実現可能なもの」であることが必要だ。つまり達成度合いを主観的にも客観的にも「評価可能」な目標として設定する必要がある。特に主観的評価として、利用者がその状態に到達したということが実感できるとともに、それを第三者が見て実感できるということはとても大切なことだ。利用者が「この状態になれた」という感覚こそ、眠っていた「力(可能性)」を活用した証であり、まだまだ頑張れる、まだまだ力が残っていると感じ取れるようにすることが何よりも大切なものになるからだ。だからこそここではその状態に達したかを「客観的」に確認できるようにしておくことで、利用者や第三者にもその状態に達するまでのプロセスを認めてもらい、達成したことをねぎらってもらい、かつ褒めてもらえる。その経験が次の頑張りのエネルギーとなっていく。

また、目標の到達には時間が必要だ。この時間の「見積もり」は、目標像に到達するために必要な時間として設定される。つまり、利用者自身が頑張り、周囲がその頑張りを支援していくことで、利用者自身や家族が「無理のない範囲」で頑張りを継続し、応援してもらうことで到達するまでの時間を見積もることになる。

このとき「期間優先」にすると、意味していることは「この日までにこの状態になる」ということで、このような支援は下手をすれば利用者のペース以上の頑張りを必要とする事になる。それによって利用者がオーバーワークになったり事故の危険が増す可能性があるので、期間優先ではなく目標優先にした期間設定が必要となる。

目標の設定とそのプロセスの分解=短期長期の目標設定。そしてそのための期間算出。これができ終わると今度は目標の到達のために何をすればよいのか=サービス(支援)の内容へと思考は進んでいくこととなる。

 

 

第5章 「計画作成」

サービス計画表の作成作業に入る。

1表は、「利用者の望む暮らし方」・「家族が利用者に望んでいる暮らしから」と、それを実現していくための「援助方針」を記載する。

2表は、方針に沿って具体的な課題と目標、目標達成のための必要な支援を記載する。

1表の「生活の目標」の欄には、アセスメントした結果明らかになり共有された「利用者の望む暮らし」とそれに対する「家族の意向」を記載し、利用者・家族に区分けして記載する。ここでは「アセスメントの結果」に基づいて記載することになるわけだから、アセスメント段階において記載内容が明確にされている必要がある。そしてそれを利用者・家族と共通認識し、了解を得た上で「共有」しておくことが前提条件になる。

また1表には「認定審査会意見」の欄があり、審査会で「サービスの利用に関する意見」と「要介護者が配慮すべき意見」が附されている場合には、前者では「サービスの種類の指定」が行われるため、それ以外のサービスは保険給付の対象にはならなくなる。

後者の場合には意見内容に沿ってケアマネジメントやサービス内容を検討していくことが必要となる。このように審査会意見の有無と内容を確認して対応する必要がある。

「総合的援助の方針」には、支援全体がどの方向に向けて進んでいくのかの「道筋」を明らかにする。ここでは「サービスの種類」や「サービスの内容」を記載しないことが原則だ。ここでサービスの種類を記載してしまうと、それ以外のサービスでは目標達成することが不可能だということを示してしまっているとともに、サービスの種別を超えた「連携と協力体制」の意味がなくなる。つまりチームケアが構築されなくなるからだ。

総合的方針はこの段階で記載し、更に2表を記載し終えた後にもう一度方針とサービス内容の整合性が保たれているのかを確認する必要がある。

また1表では訪問介護の「生活援助中心型を算定する場合の理由」も記載が必要になる。

 

2表では「課題」・「目標」・「サービス内容」が記載される。

課題も目標もアセスメント段階で明確になってきているので、ここではアセスメント結果を転記することになる。アセスメント結果に表されていないような「新しい課題や目標」を設定してはいけない。なぜならそれは利用者や家族と共有化や了解をされていないからだ。

2表の「サービス内容」の欄は、短期目標を達成するために必要な支援の内容を記載する。ここで留意すべきことを箇条書きであげてみる。

 

1.サービス内容は事業所に丸投げするような記載ではいけない。

2.例えば「リハビリ=通所リハ」「自宅でのリハ=訪問リハ」というような1対1の支援にしてはいけない

3.加算サービス(通所系の入浴加算を除く)を組入れる必要性があれば加算サービスを記載する。

4.支援内容は具体的に記載する。

5.サービス提供上の留意点も組入れる。

6.利用者自身の役割、家族の支援など、介護保険給付以外のサービスも組入れる。

7.特定福祉用具購入・福祉用具貸与については、用具の必要性と使用用具の選択根拠や継続して使用する場合の必要性を記載する。

8.1つの目標に対してサービス内容が1つであるとは限らない。複数の場合には優先度の高いサービスから記載をする。このサービス内容が介護保険給付対象である場合には※1の欄に○をつける。

 

サービス種別の選択では、サービス内容を提供することができる「人」「機能」「設備」を有している種別を選択する。例えば訪問介護を選択したときには医療行為は提供できないので、そのような選択は不適切になる。そのため介護支援専門員には各サービス種別がどのような機能を有し、専門職がいて、設備を有しているのかを理解しておく事が不可欠となる。

種別が決定したならば今度は実際に支援を提供する事業所を選択する。事業所の選択においては、利用者・家族の「自己決定」に基づく。介護支援専門員は、この自己決定を支援する。具体的には情報提供をする。例えば「希望する事業所はあるか?」と確認して、希望があればその事業所を最有力候補として、その事業所のサービス提供能力が求めている支援を実践していくことが可能かを評価し、可能であればその事業所が選択され、可能でないならばその事実を伝えて更に自己決定を求める。このプロセスを繰り返して事業所を決定する。

サービスの提供頻度については、利用者・家族の希望、目標と支援の関係性から「何回」という回数を導き出す。このとき希望した回数が必ず提供できるとは限らないので希望回数が提供できない場合の対応を想定して打合せをしておくと手間がかなり省くことが可能になる。そしてあわせて利用の希望曜日や時間帯も確認しておく。ここでも希望が叶えられない場合を想定した協議を必要としている。また、事業所にはこれらの希望を伝えてサービス提供の可能性を確認し、実施可能な回数、曜日、時間帯等を決めておくことが必要になる。

サービスの提供期間は日付で記載する。「○年○月○日〜□年□月□日」という記載になる。これによってカレンダーに応じた日付設定を行う。またこの期間は、原則として短期目標の設定期間内に設定をする事になる。

ここまで来て2表が完成するので、改めて方針と具体的支援との整合性を確認し、問題がなければウィークリースケジュールに基づいて、利用表・提供票を作成することになる。

 

 

第6章 「サービス担当者会議」

サービス担当者会議の開催は義務化されている。だから開催すべき時に開催しなければ「減算」という罰則が与えられる。減算されたくないから開催するというのでは余りに消極的過ぎる。開催することが義務化されるほど重要な側面があるという意識を持ち、効果的で有益な担当者会議を開催することで、利用者に対するケアマネジメントの質が確保され、またサービス提供者の資質もまた高められていくということを理解して、積極的に担当者会議を運営していきたいものだ。

さて本論に戻そう。担当者会議については実際の会議の場がスタートになるのではない。担当者会議の第一歩はサービス提供者に「事前」にケアプラン原案を配布するところから始まる。

なぜ「事前配布」する必要があるのかといえば、事業所ではケアプラン原案およびその根拠となったアセスメント結果から何を目標として、どのような支援を提供していく必要があるのかを「読み取り」をし、そこから具体的支援へと結び付けていくための「仮説」を設定して担当者会議に出席する。つまり計画原案を配布された段階から、事業所の「二次アセスメント」がスタートしているわけだ。また、配布から実際の会議までの時間的な間隔があればそれだけ事業所では計画原案やアセスメント結果を分析する時間が生み出されることになる。だから介護支援専門員は、この「時間」を生み出すために事前配布することに努めていく必要がある。

さて、事前配布とともに担当者会議を実際に「いつ・どこで・何のために」開催するのかを確定しなければ会議は開催できない。

まず場所について。原則としては利用者の自宅での開催とすべきだ。例えば要介護5の寝たきり状態の人を移動して会議を開催するよりも、ケアマネや提供者が利用者宅へ出掛けていくほうが簡単であり負担が少ない。利用者や家族の利便性を最重要視する視点と思考が不可欠になる。したがって利用者宅以外での開催は例外とする必要がある。また、要介護者の場合、サービス提供時間中の担当者会議についてはサービス提供の時間に含まれなくなるので注意が必要になる。

時間については利用者・家族の都合を最優先する必要がある。わざわざ会議のために休暇を取ってもらうような設定は避けていく必要がある。また、午前中の会議の場合、通所系サービス事業所ではなかなか参加が難しくなる傾向があることも理解しておく必要がある。出来るだけ多くの参加者が「集まれる」時間設定が必要になる。

会議の目的を明確化することは、無駄な時間を使わないという視点で必要なことになる。多忙な関係者が集まるのだから、なるべく無駄な時間を使わないようにするためにも「会議の目的・目標」を事前に明確にし、それを担当者に伝えておくことで会議の焦点を絞り、有益な検討が行われることになる。

このようにして会議を招集することとなるが、関係者全員の集合が望ましいには違いないが、全員が参加できる日程調整を徹底しようとすると、具体的な開催日時の決定は困難になる。できるだけ多くの関係者が出席できるようにするとともに、都合により欠席される場合には会議の中で介護支援専門員が確認したいこと、事業所が伝えたいことなどを照会し、その情報を持って担当者会議を開催するとともに、会議結果を欠席者に伝達することを忘れてはならない。

さて、実際の会議の運営については次の点を理解しておく必要がある。

 

1:会議の目的・目標にそった展開をする。それを可能にするための司会進行は介護支援専門員の役割になる。

2:利用者・家族を中心に会議が展開される。したがって利用者・家族には誰が何をする役割があるのかを明確にするためにも、会議当初での自己紹介は不可欠になる。

3:担当者会議ではケアプラン原案をたたき台にして専門職が専門的意見をたたき台に加えていくことで、より精度の高いケアプランへと「育てる」場である。したがって介護支援専門員は積極的に担当者の意見を求め、担当者も建設的な意見を発言する。

4:常に利用者・家族の意向を確認し、同意を得て薦めることを忘れてはならない。ともすると専門職がリードし、専門職の必要とする結果へと導き立ちになりやすいので、利用者・家族の意向を確認していくことを忘れてはいけない。

5:担当者会議は単にケアプラン原案を完成するための場だけではなく、ケアプランを中心として援助者が横の連携を構築し、チームケアの提供を可能にしていくための場でもある。したがって互いの支援に対する協力や連絡方法の明確化、連携方法の明確かも会議における重要な課題となる。

 

これらの点に留意しながら実際の会議の運営においては次の点に配慮して行う事が必要になる。

 

1:利用者・家族は専門職の中で積極的に意見や自らの意思を表明していくことは難しい。だからこそ介護支援専門員は「利用者・家族の代弁者」として意見を引き出すような働きかけや時には変わって意見を伝えるということを行う必要がある。

2:常に利用者や家族を「支えていく」姿勢を保つ。これはある意味では代弁者としての機能を果たしていくことであり、担当者に対してもサポーティブに機能していくように働きかけていく必要がある。

3:出席者には意見を出すように求める。黙ったままで帰るようなことがないようにする。というのも担当者会議を経て計画が完成するので、あとから色々いわれるようなことがないように、会議の場で確認すべきことを確認し、合意形成をして実践に移るようにする必要がある。

4:チームケア推進のために連携と協働を確立する。例えば通所介護・通所リハを利用するような計画の場合、事業所はおのおの「連絡ノート」を持つ場合が多い。事業所から見れば「1冊のノート」であるが、利用者から見れば「同じこと」を2冊のノートに記載しなければならない。このような手間を解消するための方策の検討なども重要な要素となる。

5:連絡先および方法の明確化をする。例えば通所介護事業所から「利用者さんが熱を出しています。どうしたらよいでしょうか?」という連絡が介護支援専門員によこされる。しかし介護支援専門員が医者でない限り「このようにしろ」という事は出来ない。したがってこのような情報を介護支援専門員に報告して指示を仰ぐことがないようにしておくこと、すなわちどのような情報であれば誰に報告する、どのような情報をどこへ報告するというルートを確立することも担当者会議の重要な要素となる。

 

このようにして担当者会議でケアプラン原案が完成し、この会議結果を基にして個別援助計画が作成され、実際の具体的支援が開始されていく。

 

 

第7章             「モニタリングと評価」 −効果的支援の展開のために−

1項 モニタリング

支援が開始されていけば支援の効果が出てくるもの。それを把握していくことがモニタリングとなり評価となっていく。

サービスが動き始めたら、サービスが順調に展開するか、利用者にとって有益に展開しているかを確認する作業、それも追跡して確認する作業が必要となる。これがモニタリングだ。そしてモニタリングはするだけではなくその結果を活用していくことが必要となる。それが評価だ。

モニタリングについては「月に1回以上利用者の居宅を訪問して、利用者・家族と面接をし、その結果のまとめの記録を月1回以上残さなければならない」という運営基準がある。義務規定であり、モニタリングの記録を残していなければ減算になる。だからと言って「○月○日モニタリング実施。著変なし」という記録内容ではモニタリングをしているとはみなされない。

モニタリングには「何をモニターするべきか」という「視点」が明確化されている。通常は次の点の確認をする事が必要だ。 

 

1:アセスメント状況の変化はないか。

2:利用者・家族の満足度を把握する。

3:サービスの利用状況を確認する。

4:サービスの提供方法を確認する。

5:サービスの効果の確認をする。

6:新たなニーズの出現の有無を確認する。

 

1については、現在提供しているサービスは「過去」にアセスメントした情報を基にして計画された支援を提供している。したがって時間の経過とともにアセスメントした時点と現在の状況に変化があれば、当然現行の支援は適切なものになっているとは限らないので、具体的なサービスや支援の土台であるアセスメント状況の変化を確認し、必要な時に必要な支援を提供する上で、このモニタリングの視点は不可欠となる。

2については、利用者・家族に不満があるサービスは、結局利用者・家族にとって意味のないサービスになる。満足していないのであれば満足の行くサービスへと変更していかなければならないので、満足度の把握は重要な視点となる。

3については、介護支援専門員は、どのようなサービスをどのくらい利用することで目標が達成できると見積もって計画作成をしている。したがって当初計画の通りに利用されていないのであれば目標達成は困難になったり、当初計画期間では達成できなくなる可能性がある。また利用回数を減らしているのであれば、例えば計画通り利用したら疲れてしまっているのかもしれない。いずれにしろ利用者に過剰な負担になっている可能性があり、目標も期間内に達成できなくなるので修正をする必要がある。そのためには把握しなければいけない情報なのだ。

4については、サービス提供者は「ケアプランが作成されている場合、ケアプランの内容に沿った個別援助計画を作成し、支援を提供しなければならない」ので、必要十分な具体的な個別援助を提供していることが目標達成のために必要になる。それが適切に行われていないとなれば目標達成ができなくなる。従ってこの視点のモニタリングを実施する場合、必要に応じて個別援助計画を確認したり、事業所を訪問して実際の援助場面を確認するなどの方法で、情報を得ることが必要となる。

5について、サービスを利用することによってサービスの効果が得られるはずだ。それは支援のスタート時点を比較して「上向きの変化」が生じてくるはずだ。その変化を把握確認することで、目標をどこまで充足することができているのかを確認する。そして目標到達=現行の支援のゴールを明確に判断するために把握しておかなければいけない情報だ。また、「サービスの効果」が得られていない=状況に変化がない・状況が悪化したのであれば、サービス計画そのものの妥当性を検証してみなければならない。使っても意味のないサービス=金を払っても効果がないサービスを継続していく必要性はまったくないからだ。

6については、サービスの効果が得られてきたり、サービスを利用することで意欲の改善が見られたりすると、計画作成時点では優先度の低かったニーズや、その当時にはニーズではなかったものが新たなニーズとして表面化してくる場合がある。例えば歩行の練習をしているときに歩行器歩行をしていたが、それの安定性が増してきたので多点杖による歩行練習へというようなケースだ。このような「新たなニーズ」の出現の有無を確認することで、必要な時に必要な支援を必要な間提供することが可能になる。

 

第2項 「評価」

「評価と結果は違う」もの。まずこれを明らかにしておく。

結果とは支援を利用し終えた状況のことだ。試験で例えると「得点」が結果だ。したがって支援開始時点とどこがどのように変化したかということは「結果」であって「評価」ではない。では評価とは、結果を把握し、目標の達成状況である結果を把握する。結果が当初予定していた状況に到達していない場合に、何が不足していたのかを明確に分析し、なぜ不足していたのかの原因を解明し、さらにその原因の解消策を講じ、その解消策を実施することを評価と言う。

したがって原因分析の結果でどこに・どのような解消策を組入れていくのかが変化していく。例えばアセスメントに間違いがあればアセスメントをやり直すことが必要になるし、目標設定が大きすぎたのであれば目標設定を小さなものへと変化していくことになる。

その意味で「継続する」ということはかなりのレアケースになる。簡単に「継続する」ということはいえない

なぜなら、「継続する」ことが可能な場合というのは、アセスメントに問題がなく、目標設定にも問題がなく、かつ支援内容にも問題がない場合であって、ただ単に期間設定が短かったという評価結果が出ている場合に限って「継続する」ことが可能になる。要は期間延長すれば必ず目標に到達できることが明らかである場合に限って用いられる評価なのだ。これ以外の場合にはどこかに瑕疵があるはずなのでそれを解消しない限り、また同じ結果にならざるを得ない。

以上のようにモニタリングは状況の変化を把握することであり、その把握した情報を基に評価を行って、目標到達に向けた適切な支援を提供して結果を出していくためには必要不可欠なプロセスとなる。だからこそ実施が義務付けられているわけだ。

ケアマネジメントはこのようなプロセスを展開していく。そしてそのプロセスは「らせん状」に展開されていく。決して平面状で展開されていくものではない。必ず1プロセスを経た後には「高さ=効果」が得られていなければ意味がないものだ。

そして介護支援専門員はこのプロセスの中心で機能していく専門職として存在している。その役割と専門的機能を果たすことができる存在として認められているプロフェッショナルである。

 

この役割と機能を果たすことが利用者の自立支援へ結びついていくことになる。

 

まとめ

 ケアマネジメントプロセスを、その役割と機能に基づいて分析してくると以上のような多様な要素と、多様かつ専門的な知識と技術が必要になっていることが分かる。だからこそ介護支援専門員という「専門職」が必要とされ、機能していくことではじめて利用者にとって有益なケアマネジメントが提供され、それによって自立支援が行われていくことが可能になっているといえる。

 ケアマネジメントの基本であり、出発点になるのは「コミュニケーション」だ。いかに良いコミュニケーションを図っていくかがケアマネジメントの精度とその結果である具体的な支援の方向性も価値も決定することになる。介護支援専門員は改めてコミュニケーションの重要性を再認識し、自分のコミュニケーションを振り返ってみて、必要な関係性が構築され、維持し続けているのかを確認していく必要がある。

 

 また、介護支援専門員はこれらの「基本的な知識と技術」と「コンプライアンス」を確保して実践していくことが必須要件として求められている。いくら基本的な部分の徹底を図っていても、法令に反した実践は評価されない。そして適切なケアマネジメントを実践し、かつコンプライアンスを保った実践をしていくことで、いわゆる「グレー部分」の状況に対しても、「必要なケアを保険給付として提供する」根拠としていくことができる。

 

 ケアマネジメントが日本で具体的に何をどうすることなのかが一般的になってまだ7年。7年しか経っていないのか・7年も経ったのかは議論が分かれるところではあるが、筆者は「もう7年も経ったのか」を考える。7年もの時間が経過しているのだから「まだ試行錯誤で」とか「まだ混沌としていて」という議論は無意味であると思っている。ケアマネジメントとは何をすることなのかについては介護保険制度が施行されて始めてノウハウが生み出されたものではない。これまでの「福祉制度」の時間経過の中で積み上げられてきた実践理論を活用しているものであるので「すでに理論的には完成しているもの」であるのだ。だからこそ必要な理論・知識・技術を理解し、その実践をしていくことが今日介護支援専門員に一番求められていることになっている。そしてこの実践をすること=適切なケアマネジメントを行い、かつ結果を出すことで、介護支援専門員の評価を上げていくことが必要になる。

 国では結果を出してから出ないと評価を上げようとはしない。そして結果は「一部」が結果を出している状態では認めてはくれない。「全体」として一定以上のレベルを結果として出して始めて評価をする机上に乗ってくるのだ。だからこそケアマネジメントとは何をすることなのかを理解し、実践していくことがなければ、現状の待遇が改善されることはないと考える必要がある。

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